なにげなく、テレビでマジックをしているシーンを見ていたら、若いころの思い出を書きたくなりました。
私が20代の前半の頃です。大きな飲食チェーンで店長を目指して社員マネージャーとして働いていました。
お店の閉店は23時で、その後の片づけ作業はアルバイトさん4人で実施していました。男性ばっかりだったと思います。彼らはいわゆる「クローズメンバー」と呼ばれていました。
クローズメンバーは男子大学生が中心で、いろんな大学が混じっていました。
クロースメンバーの中に大阪大学の「Y君」がいました。いかにも学者風で銀縁眼鏡をしていてやせ型で一見研究者風、白衣が似合う感じです。おでこが賢そう。
いつもは物静かなのですが、しゃべり始めるといぶし銀的な面白さのある人でした。その彼がある日思いつめた感じで私に「話がある」と言ってきました。
緊張しながら対応したら
「私は大阪大学奇術研究会に所属していて、来月の日曜日に発表会があります。そこにクローズメンバーのみんなを招待したいのです。」ということでした。
つまり、その日はクローズメンバーが不在になる事を承知で招待を認めてほしい、とのことです。彼は仲良くなったバイト先の友人に自分の晴れ姿を見てほしいのです。
そりゃ、店舗運営側としては痛い話ですが、ここは男気の見せ所と思い、「即決承諾」しました。当時の私もたいしたもんです。
多分、その後他店にヘルプ依頼したんだと思います。
彼は涙を流して喜んでくれました。
そして、当日ヘルプメンバーと一緒に閉店作業をしていたら、発表会を観にいったメンバーとY君自身がお店にやってきて、無給で閉店作業を手伝ってくれました。
ヘルプメンバーと一緒に閉店作業をしながら、私にその日のY君の活躍や衣装や髪型の事など、口々にみんな話してくれました。とても楽しい夜になった事を覚えています。
後年、知った事ですが、大阪大学奇術研究会って老舗の活動で有名なOBも多数おられるようです。
Y君のまっすぐな行動によって、誠意は誠意で答える事を学ばせていただきました。
誠意には誠意で答えると、それにまた誠意で答えられて、いつまでも誠意のサイクルが回り続けるのです。そのうちにどちらが先に誠意を示したのかも、どうでもよくなって、心地よい人間関係だけが残るのでしょう。
Y君も今では50代後半だと思います。どこでどんな活躍をしているのかはわかりませんが、社会で活躍しているんだろうと思います。