飲食店長のブログ ~ 人材戦略の実践レポート

実際に飲食店を経営しながら、そのノウハウを突き詰める

半個室化の代償

 

寿司テロの話とか 感染症の2類から5類になる話とか、あれこれ見ていると、飲食店のサービスがこれからどうなっていくのか、考え込んでしまいます。

 

感染症対策の観点からは”個室化”とか”間仕切り”の必要性が高いです。

 

さらに非接触を目指すなら、無人化(タッチパネル、無人レジなど)が良いのでしょう。

しかし、人に接しないということは店員からも見えないということでもあります。

 

仕切りが高い客席は従業員からも見えないので、必要があればボタンなどで従業員を呼ぶという形式になります。まるで料亭の個室か旅館の部屋食のようですね。

 

格式のある料亭ならば、お座敷でお客様が”ポンポン”と手をたたけば、担当の仲居さんが「はーいー」とやってくるんでしょう。つまり、仲居さんは”ポンポン”が聞こえる場所にいるのです。またお店全体が静かなのです。

 

個室ですから落ち着きますのでゆっくりと落ち着いた話ができます。しかし個室ゆえに料理を頻繁に注文するわけにもいきませんのでコースになっている場合がほとんでなのでしょう。

 

コースの料理ができるたびに仲居さんが「失礼いたします」といって座敷に入ってきます。

 

仲居さんは座敷に入った瞬間に、お客様の食べる速度やお酒の出具合を見極めて、次に必要なサービスは何かをつかむのです。

ですから”一段レベルの高い観察眼と接客力”が求められるとも言えます。個室料亭や旅館とはそういう場所なのです。

 

大衆的な食堂はそうではなくて、みんなが同じフロア―で食事します。ホール係はお客様のテーブルの食事の進み具合や飲み物の無くなり方を常時観察しながら、「おかわり、いいりますか?」とか言いながら、接客するのです。料理もコースではなくアラカルトになっていてお客様は食べたいものを食べたいときに注文できます。ホール係からお客様が見えやすくなっていて、お客様からホール係も見つけやすい。

 

同じ人数のお客様を接客するのなら、個室のほうがより広いスペースを必要とします。明確な担当者も必要です。

人件費面でも設備面でも採算性は個室のほうが悪いのです。スペースの贅沢な使い方です。

だから個室の飲食店は料金が高いのです。

 

昨今、感染症対策で”個室”や”半個室”が求められるようになりました。でも、もともと大衆的なお店だったサービスのまま、客席だけ個室にしたので、煩雑な注文に耐えるためにタッチパネルになるのです。

 

タッチパネルを導入したら、従業員は呼ばれるまで行く必要はありません。

 

もともと大衆的なお店の長所だった”お客様を観察しながら接客を展開することはなくなりました。

 

呼ばれるまで。何もしないのです。

 

個室本来の、「店員が入室と同時に瞬間的は判断するスキル」は、無い。かといって、大衆的な飲食店が実行していた「常時お客様を観察するスキル」も失った。

 

ですからこれは「サービスレベルの致命的な低下」を引き起こすしかない。

 

お客様の側からすると、呼ばないと来ないし、観察力や注意力もないのはわかっていますから、お店に期待しません。

 

事件はそういう大衆的なお店の 個室や死角で サービスが行われない場所でおこるのです。

 

飲食店客席の死角はむかしからありました。イタズラもあったと思います。

 

しかし、ここ数年で死角は圧倒的に増えました。増えすぎて、飲食店側は死角を危険と認識しなくなりました。

 

「この店なら何をやっても気がつかないだろう」となめられます。

 

今後、飲食店が考えを改めない限り、事件や事故は連発するでしょう。そういうレイアウトだから。

 

店長のみなさんはいろんな変革を実行するのも良いですが せっかくお店に伝承されてきた質の高いホール係のスキルが死に絶える前に気が付いてほしいですね。

 

イタズラする奴が悪いんですから厳罰にすべき。飲食店側はこれ以上イタズラされないよう、レイアウトやシステムを見直してほしい。

 

感染騒動の副作用なんです。